雑事~ざつごと~

てきとうにたらたら文章書いてる奴の垂れ流しやら雑記やら。

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SEEN-0.5 「Set out,inner1」

 士郎はいつものように養父である衛宮切嗣、姉的存在である藤村大河、友達の妹である――と言っても士郎自身も友達というか、家族のような付き合いだと思っている――間桐桜と夕食を食べ終えた後、あまり面白いとは言えない食器洗いを済ませた。そして切嗣たちに緑茶を一杯ずつ入れてから、近未来的にデザインし直されたような拘束具じみている目すら覆うそれを被り、右側の丁度こめかみあたりにある出っ張りを押し込む。そしてきっかり一秒後に「アクセス、マーブル・ファンタズム」と一人呟くように言い、彼は世界から世界へ跳躍をした。
 士郎の体があるのは、先ほどまでの大河や切嗣がだらけているのんびりとした雰囲気の居間ではなく、本物と比べてしまうと流石に違和感のある居間と同じデザインの部屋だった。しかしそこには切嗣も桜も大河も居ず、あるのは点きっぱなしの少し電力の弱い蛍光灯と、肌から透ける血管や肌の僅かなくすみなどを一切排除された、マネキンのような士郎だけだ。彼は『飛ぶ』瞬間の違和感になれずに肩を鳴らしながら、溜め息を一つ零して居間から出て行く。
 そこはマーブル・ファンタズムと呼ばれるゲームの世界で、限りなく繊細、美麗、滑らか、質感、ある言葉を何度、幾つ並べても表現できないほど少し作り物めいた現実世界とうり二つの世界であり、平行世界のような僅かに違う場所である。エッセンスのように加えられたのは魔術や吸血鬼、精霊などファンタジィではおなじみのそれであり、そして少し解釈の違うファンタジィだ。現実にぶち込まれたそれは、潜むと言う行為それだけで現実にそぐわない様に溶けこんでいる。
 士郎も、その非日常のエッセンスを僅かに加えられた存在に変質しているのだ。この世界で彼は――魔術師である。
 土蔵の前まで歩いて来た彼は手馴れた様子でその重い扉を開け、月明かりだけが差し込むその中に入り、小さめの電球で中を照らす。鉄パイプや木材、自転車のフレームに作りかけだか分解中なのかも判らないストーブ、それに幾つも積まれた木刀がその土蔵の特殊性――と言うよりも不気味さ加減に拍車をかけている。彼はどうぞお座りなさいとばかりに空けられたスペースに座り込むと、瞼を閉じて小さく、しかし鋭く息を吐く。
 彼はひどく集中し、瞼を強く締めて背中の神経を張り詰めさせる。そして焼けた鉄の棒をイメージし、それを背骨に沿って自らの体に通していく。少しずつ、まるでミミズがのたくるぐらいにゆっくりと焼けた鉄が体を焼いていく感覚を否応なく味わいながら、体に焼けた鉄の棒を押し込む。額には玉のような汗が浮かび、顎から垂れた汗が土蔵の地面をなお濃く濡らす。士郎が一言だけ思わず言っていたと言う風に声を漏らすと、闇が揺らいだ。そして士郎の表情が苦痛に歪み、汗が背中から額にかけて異常なほど浮かぶ。焼けた鉄の棒が背骨から反れ、体の中に刺さったのだ。
「ぅ……く――」
 目の奥が点滅しそうなほど士郎は奥歯を噛み締め、焼けた鉄の棒を少しだけ引き抜いてその軌道を背中に沿わせていく。そして鉄の棒の先端が背骨の一番下まで届くと、士郎は塊のような息を吐き出した。
「死ぬかと思った……」
 このマーブル・ファンタズムでは、五感の全て、捏造された第六感、そして痛みなどが全て再現され、忠実に同じ痛みの信号を脳に叩きこみ、あたかもそれが本当にあったようにし、プレイヤーが感じた事はそのまま真実のようになる。つまり刺し殺されれば刺し殺されるほどの痛みがあるし、焼死すれば息も吸えないほどの苦しみと熱さを体験する特になる。しかしプラシーボ効果が出ることはないし、なったと言う報告もない。ただ単純に、感覚だけがあるのだ。つまり、今の士郎も間違えれば死ぬほどの痛みを体験することになっていたのだ。
 士郎は汗だらけの額をトレーナーの袖で拭い、しっかりと背中に通った一本だけの魔術回路の存在をしっかりと確かめてから、近くにあった木材を手に取り小さく呟いた。
同調、開始(トレース  オ ン )
 その言葉は衛宮士郎が魔術師へと変質する合言葉である。通った魔術回路に魔力を流し込み、そこから手を伝わせて木材の弱い部分に魔力を通していく。士郎の肩は初めて怒られた小学生のように緊張して力が篭もっていて、案の定と言うべきか、魔力は木材の許容量以上に注がれてヒビが入る。乾いた音が静みきった夜に響いて虚しく残骸と化し、アイテム名が木材から壊れた木材に変化する。
 士郎は慌てることもなく次の木材を手に取り、既に魔術師へと化した自分から木材へ魔力を注ぎ込んでいく――割れる。次、次、次……。木材を手に取りかけて止め、その数十センチほど離れた場所にあった鉄パイプを手に取り、士郎は思いのほか熱くなっていた自分の体を鉄パイプの冷たさで確認してからしっかりと握り、魔力を流し込む――ヒビが駆け抜けた。
「……ッハ、やっぱそう簡単にはいかないか」
 彼はヒビが入り一部が尖った鉄パイプを放り出し、汗の浮かんだ額をトレーナーの袖で拭うと、体から骨が抜けたような力の無さで地面に倒れこむ。或いは、突然に筋力が今の百分の一にでもなったかのような頼りなさで。魔力と言うのはけしてタダではない。いや、金額に換算すれば無料なのだが、体中の魔力がほとんど無くなってしまえば、土木工事で数時間働いたぐらいの体力が体から失われる。もちろん、普通の――単なる平々凡々と暮らす運動部にも所属していない学生がした、と言う比較の話ではあるが。
 全力疾走した後のような体にもう一踏ん張りさせて背中から焼けた鉄の棒を抜き去ると、士郎はそのまま広くはない土蔵の冷たい地面に寝転んだ。ひんやりと、そしてざらついた石の感触は火照った体に気持ち良く、暗い闇の中で士郎は寝返りをうち頬を地面に擦り付ける。
 数分程して体の熱と疲れもそこそこ無くなると、士郎は体を動かすために土蔵を出た。その数秒後ぐらいに壊れた鉄パイプと壊れた木材は透明になり姿を消し、処理を少しでも軽くする為に世界はその存在を抹消していく。
 少し冷たい風は士郎の体と髪を撫でながら去って行き、土蔵からそう離れていない庭の草を鳴らす。士郎はその音に耳を澄ましてから地面に座り込み、柔軟運動をしようとしたその時だった。まるで静電気がセーターに溜まるような感覚が脳髄と胸の奥から生まれ、士郎はその感覚に首を捻ると、途端にそれが急速に肥大化し、体中に広がって、熱が再発した。無理矢理に神経を肥大化し、それを炎で炙ったような痛みと熱さが脳髄から指先までたっぷりと漬され、声を出すことすら難しくなるほどの痛みと熱は徐々に大きくなり、骨の一本一本に灼熱に焼けた棒が入れられたような感覚は、既に筋繊維一本一本に入れられたような痛みと化している。それに追い討ちをかけるようのにひどく耳障りな音が回りから耳朶に叩きこまれ、士郎の体の周りに赤いゴシック体の文字でERRORと言う文字が真夜中のサイレンのように次々と浮かび上がり、それと同時にERRORの文字は次々に空中に生まれていく。騒音と熱と痛みが同時に体を苛む中、士郎はその中でひたすらに灼熱に焼けた棒を一本ずつ引き抜いていく。しかし、抜いたそばから挿入されるそれに対処も出来なくなった時、別の感覚が脳からではなく、胸から直接響く。この世で一番大切なモノが自分から引き剥がされるような喪失感と焦燥感が、士郎の灼熱した脳髄を冷ややかにする。
 ――それは、ダメだ。それは、ダメだ。それは、ダメだ。
 まるで蚊のように大切なモノを抜いていくが、痛みと熱を与えたから許せと言っているように見えない手か何かは大切なモノを引っ張っていく。士郎は剥き出しになったような神経と熱を無視して、それを暴走させる覚悟で利用する。
「――同調、開始(トレース  オ ン )
 とてもハッキリ言えたとは云い難いが、士郎は自身を暗示の中に落としこみ、酒を鍋に入れて沸騰させてアルコールを飛ばしながら煮詰めたような自身の魔力を汲み上げ、自分自身に浸透させていく。まるで茹でられた泥のような速度で魔力はようやく足の指先まで浸透した時には大事なモノは半分ほども引き抜かれていた。士郎は見えない手と大事なものに手を伸ばし、それを自分に突き刺していく。それは、渡せない、と。

 僅かに士郎の方が力が強いようで、まるでヴィデオをコマ送りで見ているような感覚ながら、しかし確実に士郎は大切なモノを取り戻していく。力を込めるたびに熱と痛みが軋みを上げ筋繊維の一本が千切れていくような痛みが現実でヴァーチャル・ギアを被っている士郎の脳髄に叩き込まれるが、それでも士郎は手を離さず、魔力をなお浸透させ、ようやく成功している強化を限界ギリギリにまで引き上げていく。大切なモノをようやく九割ほど体に突き刺し直すと、体中の痛みと熱はブースターでも取り付けられたように加速度的に士郎の体を突き刺し、折角注いだ力を零させる。ERRORの赤いゴシック体で作られた文字は既に士郎を包みこむほどに生まれ、サイレンは現実に聞こえていたら鼓膜を突き破り三半規管を狂わせるほど士郎の聴覚を壊している。あれほど耳障りだったその音も、今の士郎には鈴虫の鳴き声ほどにも聞こえていない。心臓が鼓動する度に血が、血管が、神経が、筋肉が、骨が、痛みと熱が同調して鼓動し、体の外にまで広がっていく。風に撫でられる髪さえも痛く、熱い。士郎はマラソンでゴールが見えたかのように最後の力を込め、大事なモノを全て体の奥に突き刺しきった。同時に体は鼓動して、今までの痛みが遊びだったかのような熱さと痛みが体中を引き裂くように現われ、そして神経が丸ごと引き千切られるような感覚と共に熱と痛みは一切消えた。それこそまるで、無かったかのように。同時にERRORの文字とサイレンも無くなり、士郎は一人バカみたいに疲れきった体で地面に寝転がったまま、ログ・アウトとした。
 そして『飛ぶ』瞬間の感覚が疲れきった体に鞭を打ちながら飛来し、草の匂い、感触、一切が消えてからSEE YOUの言葉が浮かび、一秒ほどで消えるヴァーチャル・ギアを被っている感覚が体に戻る。士郎はそれを力無く畳の上に置き、トレーナーの中、外、関わらずバケツにたっぷりと溜めた水を被ったような自分に気付き、鞭を打って怠い体を動かして風呂に入って寝た。
 桜と大河は家に戻ったのか居なかったが、切嗣はまだまだ眠気も無さそうに探偵ものの小説を読んでいる、士郎がマーブル・ファンタズムの世界にログ・インしてから一時間ほどのことだった。
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  1. 1970/01/01(木) 14:00:00|
  2. marble phantasm
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