雑事~ざつごと~

てきとうにたらたら文章書いてる奴の垂れ流しやら雑記やら。

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SEEN-0.75 「Set out,inner2」

 士郎は冬だと空の薄暗い時間に起き、少し頭が重いような感覚を振り切って冷たい空気を深く吸い込んで眠気を覚ます。元々目覚めは良い方だから、それで十分であるらしく、キレの良い掛け声と共に布団から跳ねるような勢いで起き、布団を畳んで冬場の……しかも朝には非常に寒そうな恰好に着替え、竹刀の音は久しくしていない剣道場に入ってからゆっくりと体を解し、筋肉トレーニングのメニューをこなしていく。今日は士郎が朝飯の当番ではないから、比較的じっくりと柔軟運動をしてからメニューをこなせたらしく、士郎は気持ちの良い汗を掻いた。
 体の汗を流す程度に士郎はシャワーを浴びると、学校へ行く為に制服を着てデニム地のシンプルなエプロンを身に付け、下拵えをしている桜に朝の挨拶をした。

 士郎と桜が朝食を作り終える頃、切嗣は目を覚ます。元々余り早起きをする性質ではないが、ここ数年間ほぼ同じ時間に目を冷まさないと冷えた朝食を食べる羽目になるだけあり、早起きだけは出来るようになったようだ。

 それよりも僅かに早く大河は目を覚まし、黄色と黒いボーダー柄のゆったりとしたパジャマから着替え、少し使いこんだ感のあるスニーカーの紐をしっかりと締め、坂の下にある衛宮邸へと駆け出す。坂の勢いも手伝って百メートル十秒フラットという記録を出しつつ衛宮邸玄関扉を開け、いつものように元気良く、大声で挨拶をした。

 蛍光灯もつけていない夜にも負けないほど雰囲気の暗い間桐家で一番に目を覚ますのは、怪しくて不気味な祖父の臓硯でも少々性格が歪んでしまった義理の兄である慎二でもなく、養女の桜だ。彼女は制服を着て、唯一付けるアクセサリィと言っても良いリボンで髪を結ぶと、納豆やチーズ等の醗酵食品が好きな養父の為に朝からブルー・チーズを使ったサラダや納豆とキムチの混ぜものなどを作り、その側ら性格の悪い兄の為に冷めても美味しい、というよりも冷たい方が美味しくなるものを作って冷蔵庫に入れ、鬱屈とした間桐家を後にした。

 朝食を食べ終えて少し汚れた食器を水に漬すと、切嗣に挨拶をして士郎たちは学校へと歩き出した。
 学校まで数十分かかるとは云え、まだ余裕で間に合う時間に学校へと行くのを大河はあまり良いと思っていなかったが、流石に教師が遅れるのもあまり恰好良いものではないだろうと言うのが建前で、本音は切嗣にだらしないところを見られたくないという、本性らしくない乙女的な思考だったりする。実のところ隠しきれてないのだが。
 チャイムが鳴る数十分前に士郎たちは学校に到着し、士郎はホーム・ルームが始まるまで簡単に直せそうなストーブを直しに、大河はもちろん教員室へ行き、桜は一年の教室へと行った。

 冬の寒い夜空が蒼いわけもなく、ビルの照明や街灯が無ければまったくの闇になってしまう新都のどこか冷たい雰囲気を漂わせる道を、士郎はアルバイトから帰るために歩いていた。冬用の制服とはいえ夜の外気ではさすがに寒いのだろう、士郎は時折身を震わせながらあまりらしくない風に考えごとをしつつ、ゆっくりとローファーの底を削りながら足を進めている。
 士郎がいま考えているのは、昨夜のマーブル・ファンタズム内でのことだ。マーブル・ファンタズムというゲームは、非常に安定性の高いことに誇りと実績、そして評判があり、今までそのような事件はまるで報告がなかった。と言っても士郎はまだ一ヶ月程前にマーブル・ファンタズムを始めたばかりの素人なのだが、過去のニュースでもそんな報告がなかったので、今までは無かったのだろう。或いは、プレイヤーには当たり前過ぎることなのか。説明書に書かれていた設定によると、魔術師というのは魔術を刻みつけて取得すると言う方法があるらしいから、昨日の一件もそれなのだろうか等と、士郎は思考を長い間煮込んだカレーのように材料がほとんど溶けてしまって収集がつかなくなった事に気付いて、頭の中から追い出し、さっさと家へ帰ることにした。

 少しだけ力を込めて右こめかみ近くにあるヴァーチャル・ギアの出っ張りを押す、たったそれだけの行為に士郎はするかしまいかを迷っていた。はっきりと言えば、士郎はまたあんな事があるんじゃないかと恐怖していた。
 擬似的に再現された痛みなんて大した事が無いだろうと思われるだろうが、マーブル・ファンタズムで再現されるそれは本物と同位であり、同意である。刃で肌を斬ればその部分は灼熱し、鋭く斬られたと言う感覚がその部位に走る。現実との違いと云えば、ヴァーチャル・ギアを外せば痛みが残らない事と実際に傷が出来ない事でぐらいである。あまりにも敏感に痛みを感じ過ぎてプラシーボ効果が出ないかという疑問点もあったのだが、千人のβテスターとマーブル・ファンタズム社でのテストで確認されず、発売されて九年が経ってもそんな報告がない事から、その問題点もクリアされているようである。
 つまり、痛みは消えても一度恐いと思った事は頭に染みついていて、次に同じ事を行なおうとすると戸惑ってしまうのだ、どうしても。
 士郎は凍った指先で出っ張りを撫で、スウィッチが入らないぐらいに押し込み、まるで傘が倒れるか倒れないかのスリルを満喫するように、自由になる部分を何度も押しこむ。そして、つまらない恐怖を振り払うように今までに無いほどの力で乱暴に押し込み、勢いを張り倒すようにマーブル・ファンタズムの世界へと『跳躍』する。その一瞬後には、少しだけ違和感のある温かい雰囲気の無い部屋に士郎は居た。ERRORの文字は浮かばず、騒がしいサイレンも痛みもない。士郎はようやく落ちついたように溜め息を零し、固まっていた体を解した。

 結局、その後一時間ばかり魔術の訓練をして終わったが、例の痛みも熱も襲ってくる事はなかった。
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テーマ:二次創作 - ジャンル:小説・文学

  1. 1970/01/02(金) 14:00:00|
  2. marble phantasm
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  4. | コメント:0
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