雑事~ざつごと~

てきとうにたらたら文章書いてる奴の垂れ流しやら雑記やら。

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SEEN-1 「長い夜Ⅰ」

「くそ、なん、で……」
 荒い息で言うのも苦しいのに、それでも士郎は悪態を吐きながら校庭から校舎内まで走り続ける。彼が見たのはこの辺に――マーブル・ファンタズムの冬木市で在り得るはずのない、上位に位置する「英霊」というノン・プレイヤー・キャラクター同士の戦いだった。そして彼が体験しているのは通常の魔術師なんかでは、まして士郎のような実戦経験などまるでなく、実力も最下位に位置するようなプレイヤーでは、一瞬で殺されてしまう存在に命を狙われているという絶望的な状況だ。
 士郎は上靴に履きかえるなんて余裕はないと廊下に乾いた土の跡をつけながら走り、校舎のちょうど真ん中に来たぐらいで走る速度を緩やかに落として止まった。体中の熱さと恐怖から逃れられたという感覚に開放感を感じつつ、士郎は荒い呼吸を整えようと深く息を吸いこむと、それを吐くのも忘れるぐらいに口を開き切ったまま停止した。
「よぉ、わりと遠くまで走ったじゃねぇか」
 錆び付いた金属製の玩具でも、壊れたブリキの玩具でも、不恰好に並んだ剣の群れでも音を立てるというのに、士郎は体中の熱さを冷え切らせる恐怖が芯に通されて氷の彫刻みたいな堅さと脆さで、阿呆のように蒼くぴったりとしたスーツのような鎧を着込み、赤い槍を持つ男を見上げた。士郎よりも二十センチほど高い背と、鍛え上げられた筋肉が盛り上がったスーツから判る。だがしかし、そんなもの問題ではない。それでさえとっくに致命的だが、それでさえ些細なことだ。その手に持たれた槍こそが本当に問題なのだ。馬鹿でも阿呆でも、アメーバのような単細胞生物でさえ判る程の力を秘めたその槍は、どんな下手が持ってもその力を以って敵を貫く。
 士郎は恐怖した。マーブル・ファンタズムで死ぬことによるデス・ペナルティが嫌なのではなく、マーブル・ファンタズムで再現される死の痛みと苦しみが恐いのではなく、原始的な、心の奥から染み出てくる力に対しての恐怖だった。だから士郎は、その恐怖に抗った。怯えて逃げることは恰好悪い、でも間違いじゃない。だけど怯えて恐怖して一歩も動けずに殺されるなんてことは、間違い以外に他ならず、あまりにも恰好が悪いから――士郎は抗った。現実にはなれないけども、この世界でなら目指せると思った自分の夢に、正義の味方になる為に。正義の味方は恰好良いものだから。 焼けた鉄の棒を一気に尾骨まで突き刺し、体中の毛細血管が破裂するような痛みに出そうになった声を噛み殺し、毛細血管が本当に破裂したからか赤くなる視界に歯軋りをして耐え、無理矢理作り上げた魔術回路に魔力を通す。
「――同調、開始(トレース  オ ン )
 士郎は体を強化する。少しずつ魔力を注いでいくなんて時間も技術もないから目分量で体に魔力を流し込み、更に学生服にも魔力を浸透させていく。成功率一パーセントを切る強化の魔術は何百回ぶりに成功した。それもニ連続で。
 青い槍兵は目の前に魔力を感知すると面白そうに、そして面白くなさそうに口端を釣り上げて笑った。
「なかなか面白い真似するじゃないか、え?」
 そう言ってから手の中にある槍を返し、彼にしてはごくゆっくりと、しかし現実的には子供が全力で投げる石ほどの速度で士郎の腕を殴りつける。攻撃自体は鉄ほどの硬度を保った服でカヴァーされたが、流石に衝撃は殺し切れず士郎は出来の悪い人形みたいに二メートルほど転がった。士郎は合計三度転がってから、転がった距離と勢いを利用し、クラウチング・スタートのように前屈みで走り出す。方向は来た方と同じ、そして速度はそれこそ、NFL最高の足をもったプレイヤーよりも速い。
 その速度を維持しつつ、士郎は普段ならば数十分と歩かなければいけない距離を、わずか五分弱という驚異的な速度で走り抜けると、――今度こそ体が凍りついた。士郎の父が張ったと言う設定で衛宮家に構成されている結界は、士郎やその友達、仲間等に敵意を持った者が入ると、居間の天井に取り付けられた大き目の鈴が鳴るという仕組みになっている。それが、士郎が結界の範囲に入った次の瞬間、耳朶を劈くように鳴ったのだ。
 士郎は荒い呼吸には致命的な喉が縮まる感覚を体験する前にその場から体が弾けた。例の青い男が前蹴り気味のミドル・キックをかまし、士郎をまたもおもちゃのようにふっ飛ばした。今度は五メートルほど地面から浮き上がってから二十メートルほど離れた地点で体を跳ねさせ、そのまま土蔵の近くまで跳ね、転がった。体と服を強化していたおかげでダメージこそ少ないものの、衝撃が突き抜けて行動速度は大幅に減速してしまった。
 士郎は狭まった喉から残り少ない空気を送り出す肺にかけて痛みを感じつつ土蔵の中に地面を這いながら入ると、近くにあった木材を手にとって強化する。いとも簡単に崩れた呼吸と調子と気持ちでは成功するはずもなく、簡単に木材は砕け散った。
 士郎は狭まったまま固まった喉に手をやり力を込めて握ると、簡単に喉は軋みを上げて世界が遠くなるように士郎の視界と呼吸が狭まる。するとすぐに手を離し、一度激しく咳をしてから埃塗れの空気を肺いっぱいまで吸い込んだ。そこで、青い槍兵が土蔵の扉を開いた。
「なかなか面白い坊主だが、逃げるしか出来ねぇなら興醒めだ」
 ――落ち着け、落ち着け。今一番しなきゃいけない事は落ち着くことだ、落ち着け。
 耳の奥で鳴り響く警告音の激しさに目をつむりながら士郎は肺に充満した空気を吐き出しながら言う。
「――同調、開始(トレース  オ ン )
 手に持った鉄パイプに魔力が浸透し、今や鋼鉄にも負けない硬度を持った鉄パイプを士郎は座った体勢から斜めに振るい上げ、槍を弾こうとする。槍は見事に青い槍兵の意図しない動きを見せつつ狭い土蔵の天井を引っ掻き、鉄パイプは士郎の汗で塗れた手から放られて天井を打った。
 士郎が木材を一つ手にとって外に出ようとすると、槍の柄がその胸を強く打ち、先ほどまで座っていた位置に殴り戻される。
「腕を狙わなかったのは良い判断だったけど、甘ぇよ坊主」
 士郎はもうほとんど空っぽになった魔力を集中させると、手に持った角材に染み込ませていく。指先に触れる冷たい地面に感覚は僅かに残った理性と冷静な心に過ぎない。それを木材に注ぎ込むと――いとも簡単に木材は砕け散った。
「残念だったな、頼りないその命綱もブッ千切れちまった」
 士郎は見えない空を仰いで神様に祈る前に、土蔵を一度見回して覚悟を決めた。
 青い槍兵が器用に槍を回転させて穂先を士郎に向けると、士郎は左腕を胸の前に構えて青い槍兵の膝にタックルし、微細に崩れた体勢の隙で逃げ出そうとする。青い槍兵はつまらなそうに槍を振るうと、士郎は左腕を体と槍の間に差し込む。幸いにも体勢が崩れていたおかげか、骨や神経までは切断に至らず、筋肉の大体が切断されただけですんだ。
 青い槍兵が舌打ちし、士郎に止めを刺そうと槍を構えると、その間に弓の連射が差しこまれた。
 士郎が背後を振り向くと同時に青い槍兵が見上げると、そこには黒く艶の無い弓を構え、赤い外套を着込んだ弓兵の姿があった。
「手前ェ、いったいどういうつもりだ?」
 青い槍兵が眉を吊り上げて眼を鋭く研ぐと、赤い弓兵は口端だけを釣り上げる嘲笑でもってそれを返した。
「別に、どういうつもりでもない。マスターの命令だ」
 明らかに言葉とは違う意味のありそうな嘲笑に槍兵は苛立ちを覚えると、それを抑えるよりも士郎を殺すよりも優先して弓兵に飛び掛った。弓兵も手に持った弓をどこかに消すと今度は変わりに黒白の双剣をどこからともなく取り出して構え、槍兵の一撃を受け流した。
 衛宮家の塀の上で行われているという真剣で迫力がありながらもどこかおかしい雰囲気を醸し出す光景に、士郎は緊張を解されて地面に座り込み、大きく深呼吸をした。すると左腕に走る痛みに今気づいたように顔を顰め、応急処置として破ったカッターシャツの袖を使って腕を縛った。
 しばらくの間――と言っても実時間では一分ほど――士郎が面白怖い戦いを眺めていると、背後から忍び寄るように迫る何かに気づいて振り向けばそこには穂群原学園の優等生、遠坂凛の姿があった。
「な、え?」
 士郎の呆けた声に構わず凛は「治療系は面倒なのに」なんて愚痴りつつ、士郎の傷ついた腕に手を当てて士郎の理解出来ない言葉を高速でつぶやくと、士郎の傷の痛みは瞬く間に和らぎ、数秒ほどしてから腕を覆ったカッターシャツの袖を解くと、そこには少しだけ乾いた血で塗れているが、しかし傷のない腕があった。
「うわ、すごいな遠坂。ありがとう、助かった」
 血塗れたカッターシャツの袖で腕にこびり付いた血も拭いつつ、士郎は凛に礼を言うと、凛は少し照れくさそうに顔を背けながら「借りを返しただけよ」と言い、それから少しだけ間を取って気を引き締め直し、極めて真剣な顔で、まるで睨むかのように士郎と顔を合わせながら言う。
「いい、衛宮くん。時間も余裕も――ついでにお金も――無いから簡潔に言うわよ、死にたくないならすぐに冬木市から逃げなさい」
 凛はそれだけを言うとすっかり向きを変えて、赤い弓兵と青い槍兵の戦いを渋い顔をしながら睨み、近くへ駆け出すと突き出した人差し指をランサーに向ける。すると、服の袖かに彼女に受け継がれた魔術刻印の模様が浮かび上がって光り、その指先から黒い弾丸を吐き出す。弾丸はまるで底無しのフル・オートみたいに高速で吐き出され続け、青い槍兵の体勢を僅かに崩す。それを使い赤い弓兵は押されていた状態から間を取り、一度深く息を吐いた。
「いい加減、この不安定な場所では戦い辛いな」
 赤い弓兵はそう言うと、塀から衛宮家の向こうの道路まで降りた。青い槍兵も舌打ちをしつつ道路へ降りると、槍を構えて体勢を低く構え、再度突撃し、赤い弓兵と激突する。
 衛宮士郎はただ無力で、魔術師でありながら――そして魔術師が参加したいと言うイヴェントに巻き込まれていながら、ただそこから逃げ出さなければ殺されるしかないという存在でしかなかった。状況は不透明ながら、士郎にも判っていた。赤い弓兵は凛の味方で、青い槍兵はどちらにとっても敵。そして青い槍兵の力は赤い弓兵よりも勝っている。それだけの事実は士郎にも判っていた。
 塀の外では刃金のぶつかる音と、凛がガンドを発射する弾丸を発射した時のような破裂音に、激しいかけ声等が高速で溢れかえっている。逃げるとしたら、今、これ以上のチャンスもタイミングもありはしないだろう。青い槍兵は赤い弓兵と遠坂凛を相手にしていて、もはや士郎のことなど頭から消え去っているに違いない。だが、それで良いのかと衛宮士郎が衛宮士郎たるものが訴えかける。今ここで逃げてしまえば衛宮士郎は一生衛宮士郎たりえることは無いだろうと自覚しているし、それが致命的な間違いであると言うことも理解している。ただ、衛宮士郎が遠坂凛を、赤い弓兵を助けるためには、あまりにも弱過ぎた。
 士郎がプール上がりのように震える歯を力いっぱい噛み締めるのと同時に、この辺一帯が凍りついた。暴食される魔力は士郎が小枝を折った時の、吐き気がしそうな感覚とそっくりである――否、何一つ違いなど無かった。そして士郎にも迷いは無く、ただ走った。実に自然なことで、その時士郎にはなんの恐怖もなかった。空気を吸うように、水を飲むように、困っている人を見かけたら助けるように、士郎にとってなんの事でもなかった。単に、良いことをされたらお返しをしようと言う、それだけのことに過ぎなかった。そして、それで十分だった。
 ――無力なんて判りきっていた、弱いなんて頭痛がするほど知っていた、そして衛宮士郎が大莫迦野郎なんてこと、ずっと前から指摘されていた。だから、衛宮士郎がどこまでも突き抜けて莫迦であれば良い。することと言ったら、それだけじゃないか!
 士郎は今までの悩みなどどこかへ放りだし、玄関前の門を抜けた。そこは堀を越えて戦っていた場所から移動し、青い槍兵と赤い弓兵が対峙する場所だった。そして、青い槍兵は暴食した魔力を開放する。
「刺し穿つ死棘の槍――!」
 槍は必ず心臓を貫くという呪いをかけられた槍であり、そしてその呪いは強い力を持っていた。だがしかし、強い力はより強い力によって防がれた。瞬間に過ぎない。だが、まるで隕石かと思い違うほどの質量と存在感と重量を持って空から降ってきたのは、鉄色の筋骨隆々とした身体を持つ背の高い男――まるで、鬼神とでも言うべき雰囲気を纏った荒々しい男であり、そしてその肩に対症的な白い肌と白い髪を持ち、温かそうなコートに身を包んだ少女だ。
 鈍色の巨人はその手に持った黒曜石のような岩塊で持って青い槍兵の槍を叩き落し、無理矢理に宣告された死を駆逐した。
「ごめんなさい、ランサー。殺されると困るのよ。サーヴァントの数が足りなくなるし、なにより――私がシロウを殺したいんだもの」
 左右色の違う瞳を持った鈍色の巨人は岩塊をまるで何でも無いように持ち上げると、ランサーと呼ばれた男の方を向く。
 士郎はただ次から次へと起こる事に頭を混乱させながら、白い少女にとりあえず感謝をしなければという答えに至った。自らが士郎を殺したいと言ったこともあるが、命を救ってくれたことは事実なのだから。
 凛は目の前の莫迦と鈍色の巨人と白い少女に頭を悩ませていた。せっかく救ってやった命を粗末にする理由が判らないし、そしてあの鈍色の巨人の圧倒的な強さが見ているだけで判ってしまうから。
 赤い弓兵はポーカー・フェイスを崩すことなく、ただ現場の状況を見て凛の腕を掴み気を引くと、耳元で「逃げるなら今しかない」と言い、凛はそれに頷いて二人は姿を消した。
 青い槍兵――ランサーは舌打ちをした。つまらない失敗と気に入らない相手とあまり歓迎できない状況に。そしてどう見ても面白くなりそうにない事とマスターに帰って来いといわれたことに同意して、獣のような速度でその場を去った。
 白い少女は鈍色の巨人の肩の上で反転し、士郎の方を向くと、
「ばいばい、お兄ちゃん。早く召喚してくれないと本当に死んじゃうよ?」
 その言葉を残して巨人と同じ闇色に消えた。
 残された士郎は、意味不明の出来事と感謝し忘れたことを心の中で空回りさせながらログ・アウトし、長過ぎた夜を終えた。
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  1. 1970/01/03(土) 14:00:00|
  2. marble phantasm
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