雑事~ざつごと~

てきとうにたらたら文章書いてる奴の垂れ流しやら雑記やら。

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SEEN-2 「Fatal error」

 夜に鳴り響くのは刃金の旋律。一つは五寸釘を特大サイズにしたような短剣、一つは赤くしなやかにして剛健の強さを持った槍だ。合するまでに一秒も要らない俊足の激突は夜の静寂すら殺し、空気を散らし、火花が咲き乱れる。舞台は斜めに砕けた長階段の真ん中、寺と月の見守る内に魔女の手で巡るが如く、己の獲物を寸分違わずぶつけ合う。
 合数は五十を越え、冷たい空気はそれどころか激烈なまでに温まっている。真紅の槍を構えるしなやかな男性は獣のような体勢で、狙う速度はやはり獣よりも早く、大釘を構え体勢を低くする扇情的な女性は毒蛇の如く執拗に、大釘から垂れる鎖は静寂を壊し続ける。
 風が吹いて木が揺れる。葉は揺れて合唱し須臾を置き、再度二人は合する。刃金の旋律はヴィヴァーチッシモで鳴り続く。

 赤い姿が二つ、高層ビルの屋上で佇んでいる。一人は高層ビルから街を見回し、一人は高層ビルの風に震えて腕を体に巻きつける。
「ああもう寒い。早くしてよ、アーチャー」
 凛は乱れる髪を一度抑えつけてから諦め、風のままに遊ばせる。アーチャーは元々良い自身の視力をクラス補正に加え、魔力で強化して街を見下ろす。その場所から数キロと離れた橋のタイルの数すら数えれるほどの視力になったアーチャーは、その眼を皿のようにしてサーヴァントの姿を探した。
 ……聖杯戦争という魔術師の魔術師による魔術師の為のグランド・クエスト・イヴェントがある。七人のマスターと七騎のサーヴァントを用い、ただ一つの聖杯と呼ばれる願望機を奪い合う、マーブル・ファンタズムにおける最大級のクエストの一つだ。世界各地で行われたりするイヴェントなのだが、何故かこの極東の島国が一番の激戦区だったりするのは、マーブル・ファンタズム本社が日本にあるからだろうか。
 アーチャーは大体見終えてから安堵なのか残念なのか、その両方かもしれないため息を吐いて両手で体をコートの上から体を擦っている凛に向き合う。
「こっちの方にサーヴァントの姿は無い。深山町で探すか?」
 凛は寒そうに鼻と頬を赤くした顔のまま一度頷くと、アーチャーの腕を取って重圧軽減と衝撃防御の魔術を使い、アーチャーに着地を任せて高層ビルから飛び降りた。

 士郎は食後、もう一度マーブル・ファンタズムの世界に入りこんだ。マーブル・ファンタズムの世界では体力値と生命力値が分かれていて、生命力はつまり魔力と同等のものである。しばらく体を休ませていればある程度は回復するが、一晩寝るか十二時間以上の時間経過が無ければ基本的に全部回復するわけではない。士郎の生命力値も五分の二ほどしかなく、三、四回も『強化』を使ってしまえばすぐに尽きるだろう。その状態で士郎は他と比べれば多少安全と言える家から出て、遠坂家へと向かった。
 士郎は特に危険もないな、などと思いつつ遠坂家までの道のりを歩いていると、青い、そして鉄色の輝きを眼の端で見たような気がしてそっちに振り向いた。しかし、そんなものどこにも無く、単なる家庭の灯かりと夜の暗さがあるばかりだ。士郎は昨日の恐怖がまだこびり付いているのかと頭を左右に振り、深呼吸をしてから遠坂家までの道のりを再度歩き出した。かなりうろ覚えの、結構間違った道を。
 普通ならば一五分ほどの道を士郎は三十分強かけて辿り着き、冬なのに寒いと感じない体で冷たい空気を体に取りこむ。そしてインターフォンを押す。電気信号に変換された感じがしっかりとあるインターフォンの声は、二時間ぐらい前に聞いた桜の声だった。
 彼女は士郎の声を聞いて慌てたようにテーブルに乗っかったティ・カップから冷めたアールグレイを飲み干し、スリッパが絨毯を打つ音をそこらじゅうにばら撒きつつ玄関の扉を開け、いつものトレーナーとジーンズを身につけた士郎に微笑みをかける。士郎も桜につられて笑いながら、凛が居ないか、と聞いた。
 桜はつい数十分前に出ていった、と答えると、士郎は少し難しい顔で考えながら桜に例を言い、遠坂家を後にした。
 彼女はリヴィングに戻ると、もう一度アールグレイを淹れ、戸棚にあったお茶請けのクッキィを皿にあけた。
「先輩、姉さんに何の用だったんだろう……」
 と呟いた桜の声は、どこに行くわけでもなく、ただ消えていった。

 鎖の毒蛇は宙を引っ掻くように舞い鳴り、撓む間もなくその先の大釘は突き出され、目標には中らず槍の柄や刃で迎い打たれ、外される。槍は大気を貫いて直進するが、やはり目標には中らず、大釘で弾かれ鎖で防がれ外される。しかし全てがそうではなく、ランサーと女の体には幾数の傷が目立つ。
 走り、攻撃し、回避し続けていた二人は一息を吐くために離れ、荒い息を正すと共に傷を修復する。破れていた服も全く新品に直り、見た目にはダメージは無いが、消耗は有る。ただ、万全の動きをする為に傷が無くなっただけだ。
 ランサーは深く息を吐いて体の力を抜くと、女は少し体を前に倒す。ランサーはその状態から一歩も使わずトップ・スピードに達し、槍を最速で突き出した。予見していたように女はそれを後退と体捌きで避け、ランサー数度突き出してから、それまで一度も出していなかった払いを使う。女は数度の突きのほとんどを体に擦らせるが、最後の払いに対して実に素早く対応し、大釘の尾から流れる鎖を掴んで緩ませた状態で槍の柄を捉え、一度伸ばして槍の勢いを殺して鎖を巻きつけた。しっかりと咬みついた毒蛇のような鎖を引っ張りつつ女は口端を引き上げると、ランサーは持っていかれる腕に対応するために自身の象徴とも言える槍を放し、女の腹部に放してしまった槍のような蹴りを打ち込んだ。それが二人の戦闘が始まって以来、初めての直撃だった。
 女は口から濁った声を短く宙に吐き出し、地面に足を着けて更に距離を取る。少し強く咳き込むも、しかし手に持った鎖と巻きついた槍は放していない。

「ちょっと厄介だな、こりゃ」
 随分間違った、とランサーは舌打ちし、女の持った鎖に巻きつけられた愛槍を見る。それを睨んだまま砕けた石階段の欠片を拾い、それに魔力でアンサズのルーンを刻む。
「蹴りは正直重かったですが、その分のアドヴァンテージは作れました」
 女は槍が無い分楽になった、とため息を漏らしたが、しかし気を緩めずに体勢を落とした。そして口から乾いた咳を吐く。
 アンサズのルーンに続いて、ランサーは拾った小石にウルズのルーンを刻む。ウルズを刻んだルーンを早速ランサーは発動させると、肺を搾り出すような深い息を吐き、そして限界まで膨らませるように息を吸い込み、丁度良いぐらいにまでまた息を吐き、今までよりも更に速くランサーは駆け出した。
 女は予想外の速さとランサーが使う体術に、内心、楽になったどころか面倒臭くなった、と毒吐きながら鎖と大釘、そして槍を使って攻撃を捌いていく。しかし使いなれない重量と勝手の槍は実に使い辛く、アドヴァンテージどころか荷物になった、ともう一度毒吐いてそれを柳洞寺の中へ投げ、邪魔の無くなった状態でようやくランサーの攻撃を自身の速度と使いなれた大釘で完全に防ぎ始める。
「粗末に扱うなよ、俺の槍だ」
 けして長くはない大釘に蹴りを防がれながら、舌打ちをしつつランサーは言い、置き土産とばかりにアンサズを使ってから離れる。放られた小石はまるで導火線が切れた爆弾のようにすぐさま炸裂し、半径一メートルほどを瞬間的に火で埋め尽くした。しかし炸裂する僅かに前、女はその場所からバック・ステップで退いていて決定打にはならなかった。
 ランサーはその隙に階段を強く踏みつけて跳ぶ、柳洞寺の門に向かって一直線に行こうとしたのだが、鎖が足首に巻きつき、そうはいかなかった。かなり勢いがあったはずの一足を女はその姿と英霊としての存在でも異常な腕力で抑えつけ、そのままランサーを子供の玩具のように振り回し、門とは真逆の方向へ吹き飛ばす。ランサーは石の階段に何度か体をぶつけながらも完全に落ちきるのを防ぎ、小石の欠片を一つ拾ってベルカナのルーンを刻み、すぐに使った。
「速さは僅かにこっち、力と流れはかなり向こうか、やばいなこりゃ」
 言いつつ砕けた石片を四つ拾い、全てにアンサズを刻むと眼を狩猟犬のように鋭くし、耳のピアスを一つ外す。そして、全速力で駆け上った。
 一足で六つ階段を飛ばし、三段跳びのように徐々に勢いをつけながら女と後一足の距離まで詰めると、突然横に跳んでアンサズを先ほどのように置き土産にする。女は炸裂する火をものともせずにランサーが跳んだ方に跳ぶと、ランサーはすぐにアンサズを放る。女が勢いを止めきれずに急停止すると、ランサーは更にアンサズを二つ投げつける。二つの火の塊は女を下段だけ開いた形で三方向から包み込むように炸裂すると、女は仕方無く一度下り、そして先ほどのランサーと同じように一足で彼の間近まで跳ぼうとして、特大の炎に包まれた。
「そのピアス、結構気に入ってたんだけどよ」
 片耳だけピアスの取れた格好で、ランサーは呟くように言い捨て柳洞寺の中に入り、愛槍を手にした。そして何度か振るって構えると、やっぱりこれが無いと、と云った風で彼は満足そうに口端の片方だけを引き上げる。
「なかなか、門番と言うのも難しいものですね」
 女はそう言いながら肌を焦がしつつ、炎の中から出てくる。炎で焼け、その衝撃で乱れた髪は色気があり、そして迫力がある。女は直火で熱く焦がされた肺の空気を吐き出すと、冷めた冬の空気を存分に吸い込む。そして、美しいのだろう顔には邪魔にも思えそうなその無骨な眼帯に手をかける。
 瞬間、ランサーは跳んだ。背筋に走る寒気が今すぐその場から退け、と頭をガンガンと鳴らし膝を震わせ腰を退かせ足は浮かぶより速く地面を強く蹴り、そしてもう一つの耳のピアスを手は勝手に放り投げていたが、ランサーは気に入っていたピアスの喪失にも構わず、その場からすぐさま消えた。
 炎の塊は女の頭上から降り注ぎ、女は眼帯に手を当てたまま強く足を踏み込んだだけでその炎を躱した。
「流石に、体力が持ちませんか……」
 女は炎を躱しただけでぐらついた体勢を立て直し、柳洞寺の中に入ってすぐに倒れこむ寸前、霊体化した。

 遠坂家から自分の家への帰り道をやっぱり何十分もかけてようやく半分ほどまで来て、士郎はまた青く、そして鈍色の輝きを眼の端で捉える。一度目は偶然か恐怖による映像だとしても、二度目は偶然では片付けられない。士郎は何かがあると警戒し、今までよりもよほど慎重に歩き出す。今、士郎の視界には青と鈍色の輝きは映っていない。しかし、それは今すぐ後ろにもあるに違いない、と士郎は神経を尖らせながら早足気味にアスファルトを蹴る。
 そして道は士郎の良く知る場所になり、あと十分もすれば帰れるだろうというところで、背後から声がかけられた。
「やあ、衛宮。夜の散歩かい?」
 それはいつになく機嫌の良さそうな、慎二の声だった。
 士郎は振り向いて「慎二、なんか良いことでもあったのか?」なんて聞こうとして、言う前に息を詰まらせた。慎二の背後には、派手な着物と異様に長い刀を持ってひどく目立ちそうな格好なのに、まるでそこに本当に居るのかも不確かな存在があったからだ。それは存在感こそ希薄だが、ランサーやアーチャーと同じような存在だと士郎には感じられた。
 喉が収縮して、上手く喋れなくなった士郎相手に慎二は実に嬉しそうに言葉を続ける。まるでマシンガンのように次から次へと言葉を発するが、その内容は全て「僕は今気分がとても良い」と言う一文で纏めきれてしまうものだった。あらゆる表現を引用し、昂ぶる気分を一度吐き出してスッキリとすると、慎二は実に人の良さそうな笑みを浮かべ、自分の後ろに立っている存在を紹介した。
「僕のサーヴァント、アサシンだ。そのその様子だとどういう存在だか知ってるみたいだけど、まあ当然か」
 慎二は自己完結して何度か頷くと、「じゃあ、こいつ殺しちゃって」と、人の良さそうな笑みを浮かべたまま言った。まるで、服に糸くずが付いてましたよ、と指摘でもするように。後ろに居たアサシンは無駄な答えもせずただ慎二の前に出て、その長過ぎる刀をゆっくりと上段に構えた。
「いや、待て。やっぱりちょっと苦しめてよ、その方がいい」
 アサシンはその無駄な遊びに無言で答え、刀を振り下ろす。その行為で士郎の前髪の一本だけが千切れ、暗い地面に落ちてどこにあるか判らなくなる。一度だけ強く跳ねた心臓に息を飲みつつ、士郎は竦んだ足を強く地面に叩きつけて走り出す。縮こまった喉を失敗した口笛のように鳴らしながら、冷たい空気を駆け抜ける。目だけは後ろに向けつつ全速力で走り、走っている状態で無理矢理擬似神経を作ろうとしてそれこそ無理だと知り、士郎は短く叫ぶ。その瞬間、月の光に煌く銀光夜を抉り、士郎の腕を微かに斬り裂く。士郎の腕には痛みよりも熱さと鋭さが先行し、走る速度は落ちないままだが精神はナイフで抉ったように削られた。
 アサシンは士郎の視界から外れたまま刀を構え、皮膚と僅かな肉を斬るためにタイミングを合わせ、走る時に腕が振り上がる瞬間を狙って斬りつけた。見事なほどの精密性と滑らかな剣筋は、士郎の腕とあまり高価なものではないトレーナーを斬り裂く。白い袖のトレーナーは闇の中で濃く濡れて、鼓動する発熱物質が植え付けられる。
 剣先は赤い液体を滴らせながらも夜中で月の光を反射し、鈍色の輝きを携える。そして、横一文字に光が奔る。肩甲骨が浮き出る場所より僅か五センチ上に、赤黒い線が引かれる。今度こそ、熱よりも鋭さよりも痛みが士郎の脳髄を支配した。
「っ、っ――ィ」
 揺らぐ体を必死に立て直して士郎は走り続け、無駄に酸素を消費しようとする叫び声を無理矢理噛み潰す。鼓動する灼熱物質は今も腕と背中を焼き尽くし、潰れかけた呼吸器を無理矢理動かし、飲みこむように空気を肺に入り込む。宙に浮きかける足をしっかり地面に押しつけ、士郎はつま先で最後まで地面を蹴り、体勢を前傾にして更に速く走る。
 アサシンは僅かに片眉を上げ、人間にしては中々速い、と感心してから士郎の正面から太ももを斬りつけた。今度こそ致命的な――少なくとも走る事は出来なくなりそうな――傷だった。
 士郎は不様に顔面から地面に倒れそうになり、なんとか傷ついた方の手を先について鼻を強打した程度で済ませる。無遠慮に垂れ出す鼻血は汚く顔を汚し、顎を伝ってトレーナーを赤黒く染め始める。士郎は激しく空気を求める肺と喉を無理矢理抑えて体中の熱を背骨に集中させる。今しかなかった、今でないと、もう他にチャンスは無かった。体中の熱はすぐに灼熱に焼けた棒を作り上げ、士郎はそれを無理矢理に突き刺して――背骨から外れた。
「が、ァ……!」
 ノイズのかかる視界の中で、闇に融け切らない銀光がゆっくりと上段に構えられる光景を士郎は見る。そして、背骨からずれた鉄の棒を一度抜き、それこそ無茶に真っ直ぐ貫いた。脳髄が発熱して電気が全ての感覚をブチ破るような感覚を噛み千切り、壊れた呼吸器と鼻血を舐め取る舌を使って、自分に暗示をかけた。
同調、開始(トレース  オ ン )
 ブチ壊れた。
 何を強化するか、何を意図して自分に暗示をかけたかも判らない魔術を使って、衛宮士郎のノイズが混じった視界も雑音がほとんど全ての聴覚も冷たいアスファルトのおろし金みたいな痛みも全て、ブチ壊れた。
 だから士郎は知らない。そのブチ壊れた魔術が、どれほどの奇跡を起こしたのか。そして自分が完全に巻き込まれてしまったなんて、その時は知る由も無かった。
 士郎が無感覚に落ちた目の前で、以前彼が体験したようなERRORの文字が集中する。赤いERRORの文字とサイレンが撒き散らされ、アサシンは士郎を殺そうとしてその五月蠅さに気を取られ、耳を封いだ。ERRORの文字は次第に折り重なってヒトガタを作り上げていく。そしてそれは、一つのキャラクターに成った。
 艶やかなナチュラル・ブロンドの髪をアップにし、青と白を主体にした生地に白銀の装甲を身につけ、金の糸で刺繍されたドレス、そしてエメラルドを思わせる翠の双瞳が最後に嵌って出来たそのヒトガタは、今、自分がどんな状況にあるのかを把握できず、狼狽えていた。
 年からすると十代半ばほどのその少女は、アーチャーやランサーに勝るとも劣らない存在感と力をその身に持ちながら、まったく訳が判らないとでも言うように頭を動かして刀を構えているアサシンと無感覚に落ちて地面に砕けている士郎を見比べ、とりあえず傷ついている士郎を抱えてその場を逃げ出した。
 素晴らしく速かった。その一足でギアはトップまで入っただろうし、それと比べたら今まで士郎が走っていたなんてとても言えない速度だった。しかし、少女は二歩目でこけた。
 見事なまでに足を滑らせた彼女はギリギリで足を出して転倒を防ぎ、今度はその速度に乗ったまま走り出す。下手したら士郎が宙に浮きかねないほどの速度にアサシンは着いて行き、その長い刀の切っ先が届く範囲になると、上段から振り下ろした。少女は今度こそ士郎を宙に浮かせて反転すると、士郎を持っていない右手で何かを掴み、アサシンの一撃をその何かで防ぎ、そのまままた反転して走り出した。

「で、どうするつもりだ」
 アーチャーはその様子を屋外の上から見ながら、その隣りで眉間にしわを寄せている凛に聞く。そのしわの理由は色々と複雑で、TV番組のプレゼントに電話で応募するぐらい無茶苦茶に混み合って絡み合ったものである為、容易に説明は出来そうも無かった。ただ、一つだけ明確なのは、衛宮士郎がそのしわを作り出す理由のど真ん中にあるというだけだ。
「まあ、借りを作っておくのも悪くないか」
 アーチャーは口端だけで苦笑すると、どこからとも無く出した弓の弦に矢をつがえ、その名に恥じぬ精密性と速度を持って射出した。少女とアサシンに壁を作るように三本の矢はアスファルトに突き刺さり、少女は後ろで何か音がしたと気づきながらも逃げ去り、アサシンはそれが自らの刀で防ぐに値しないとして、ただ立ち止まり避けた。
 アーチャーはそのまま弓を連射してアサシンを狙うが、致命的に回避が遅れる物以外は避けられ、回避が難しいものは刀で落とされた。それを予測していたようにアーチャーは頷くと、手に持っていた弓を消してその手に黒と白の双剣を持ち、アサシンの前へと降りていく。
「行くぞ、剣士――」
「――受けよう、戦士」
 それだけを言い、二人は剣を振り抜いた。

 少女がデタラメに走り抜けてようやく止まったのは病院の前だった。マーブル・ファンタズム内での病院は一応NPCがやっていて、二四時間開いているからそこらへんは少しリアルとは違うが、便利ではある。少女は病院の自動ドアが開くのも良し悪しだ、などと思ってから受けつけへ行き、士郎が血を流してぐったりしてるのを見せ付ける。
「診察は迅速に、治療をなるべく早く頼みます」
 そう言い終わり、少女は士郎を預けて待合室の椅子に座り込んだ。そして自分が何故どこかも分からない場所に居て妙な格好をしているのだろうと彼女は深く考えこむために、無骨ながら洗練されたと言う矛盾を内包したガントレットで自分の顔を覆い、暗闇に沈んだ。
 時計を見れば役五分程度だと気づいただろうが、少女にとってはそれよりも数分ほど遅く感じられた時間を過ごしていると、静寂に響いたドアの開く音で彼女は暗闇から浮上した。
「破れた服を見ると相当深く見えましたが、結構浅かったようです。これならすぐに回復するでしょう」
 背が小さく、白髪の割合が覆い髪を撫でつけながら言う医者の言葉に少女は訳もなく安堵してから、ログ・アウトしようとして、ステータスを見れば自分がどうしてこんな格好をしてるのかも判るじゃないかと閃いたもう一方で、彼女は自らがガントレットで塞がれて呼吸が苦しかったことを嘆いた。
 手馴れた様子で少女は左腕の二の腕を素早く二度叩くと、空中に半透明のウィンドウが浮かび上がる。その画面には彼女の名前や力や魔力などの数値化されたデータが有ったはずだったのだが、そこにあるのは実に簡潔に作られたステータス画面だけ。
 Sarvant 〝saber〟と書かれたデータを始め、数値化されていたはずのステータスはアルファベット、少女が持っていなかったスキルの保有、そして持っていたスキルの消失、さらにNoble fantasmと書かれた項目には、Invisible airと名前のつけられた透明な武器が一つだけ。そして一番重要なログ・アウトの項目には、ただ無地が広がっていた。押せば幻想世界から出られるはずのExitと書かれた長方形は見当たらない。つまりそれは、いままでマーブル・ファンタズムには無かったはずのバグが出ている、ということに他ならなかった。
 少女は頭を抱えて、とりあえず寝たらどうにかなるか、などと安易な希望を持って就寝した。病院の待合室で。
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  1. 1970/01/05(月) 14:00:00|
  2. marble phantasm
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