雑事~ざつごと~

てきとうにたらたら文章書いてる奴の垂れ流しやら雑記やら。

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SEEN-2.25 「Traffic limitation」

 朝日の輝きに少女は目を覚まし感じたことは、そう簡単にはどうにもならないか、と自らの安易な希望を打ち砕きつつ納得することだった。しかたなく彼女は現状に納得し、朝日を窓越しに浴びながら背を伸ばす。ふと気がついて同じく待合室の椅子で座っていたはずの士郎は地面に転がっていて、特に支障もなくのんきそうに眠っている。
 この状況で士郎に相談すべきかすべきではないか、そして彼に関わるべきか関わるべきではないかを少女が悩んでいると、士郎はカーテンの隙間から差しこむ日の眩しさに、眉をひそめて寝返りをうつ。ちょうど寝返り椅子の影に顔が入ると、士郎はひそめた眉を緩めてのんきに眠る。それを、なんて素敵な寝姿でしょう! などと少女が思うはずもなく、むしろ一歩足を動かせばけたたましく鳴るようなその無骨なブーツで頭を踏みつけてみようか、と思わせる。彼女は上げた足を静かに下ろし、一つ深呼吸をしてから士郎の体を揺らす。
「起きてください、もう朝は始まっています」
 少女の手に入った力は思った以上で、士郎の足が何度か椅子の足にぶつかる。その衝撃と痛みで士郎は目を覚まし、ちょうど目を開けた場所にいた少女を見つめるように目を開いたまま固まっている。たしかに知らない人間が起きた時に目の前にいたらびっくりするだろう。しかし士郎はそれに驚いたのではなく、少女のリアルに僅か及ばない作り物めいた感じと、その背後のやはり作り物めいた天井のせいだ。
「俺、マーブル・ファンタズム入ったまま寝ちゃったのか」
「そうではないでしょう」
 少女が自分の期待したリアクションとは違う士郎の反応に突っ込みを入れ、士郎の体を椅子の上まで引っ張り上げる。士郎はぼんやりとした表情で周りを見渡し、ああ、ここが自分の家じゃないのだと理解した後、壁にかけられたアナログの丸時計を見て目を開く。
「うわ、もう九時半過ぎてる。遅刻か……」
 少女は耐え切れずにガントレットを装着したままの手で士郎の頭を掴み、軽くシェイクする。上下左右前後斜め、士郎の頭が全ての方向に二度ほど動き、ようやく士郎は完全に目覚めた。
「あー、気持ち悪い。じゃなくて。俺、魔術使ってぶっ倒れたのか」
 そういえばそこからまったく記憶がないと士郎が思い当たり、少女はようやく手を離す。
「すくなくとも、私がこのエリアへ来たころには血だらけで地面に座り込んでいましたね」
 二人は自分の持っている情報を出しては整理しつつ、今現在の状況を把握する。士郎は今現在ログ・アウト出来なくなっているのかを確かめようとステータス・ウィンドウを開き、幾つかの操作をして本来ならそこにQUITとあるはずの表記が元から無かったかのように消されていたことを理解した。そして少女は自分がイングランドのプレイヤーであることと、何故ここに居るのか、そして何故自分がサーヴァントと呼ばれる、本来ならばNPCがやる存在になっているのかという疑問を士郎に打ち明けたが、まだマーブル・ファンタズムをプレイし始めてたった一ヶ月であり、単なるプレイヤーの彼に判るわけもなく、謎は謎のまま残った。
「うーん、この場合どう呼べば良いんだろう。君はサーヴァントとしてはセイバーと言う役割だけど、プレイヤーとしてはアルトリア・カストゥスだし」
 眉をひそめたまま士郎は首を傾げ、そのままでは椅子から落ちるのではないかと思うほど上半身を倒している。
「私はあくまでもアルトリア・カストゥスという一人の人間ですから、アルトリアと呼んでくれる方が好ましいです」
「うん、わかった。じゃあこれからアルトリアって呼ばせてもらう。俺もファースト・ネームの士郎で良い」
「では、シロウと」
 少しおかしなイントネーションで、アルトリアは士郎の名前を呼んだ。
 その後二人は雑談とも相談ともつかない曖昧な内容で言葉を交し合い、結局最初に出た情報以上に確かなものは無く、状況は横一線から一向に上がらなかった。
「んー……このまま考えても判らないし、家にこないか?」
 アルトリアは自分がこの地域をまったく知らないことと、少しの間会話した士郎があまり嘘を吐かず、親切な人間であることを判っていたからありがたくその申し出を受けた。

 アルトリアは自分が思っていたよりも大きな家に感心してから、失礼とは思いつつも、何故か脱げないブーツを履いたまま士郎の家に上がる。アルトリアが謝ると士郎は外れないなら仕方がないと笑顔で言う。彼女が思ったより士郎は大分良い人だったらしい。それに彼女のブーツには汚れが付いていなく、土足でもスリッパや靴下で歩いたのと変わらない状態だったというのもあるだろう。
 士郎は二人分お茶を淹れると、電気釜に洗った米を入れて早炊きにセットしてからスウィッチを入れる。
「ちょっと待ってて。ご飯炊ける時間になったらおかずも作るから」
 淹れた玄米茶を飲みつつ士郎は言い、アルトリアは昨夜の七時から何も食べていなかったため、ありがたく頂戴することにした。
 マーブル・ファンタズムの世界――つまりゲームの世界とて、料理を作る作業は現実と変わりない。調味料の類は現実と遜色なく、火加減が悪ければ焦げたり生だったりし、ご飯の水加減を間違えれば芯が残っていたりおかゆのように柔らかかったりするのだ。
 現実で料理が下手ならばこっちでも下手であり、こっちで上手く出来るようになれば現実でも上手く出来るようになる。すなわち、現実でまだ小学生の内だった頃から台所を預かっていた士郎の腕は、こっちでも健在であると言うことだ。もっとも、彼がこっちでその腕を振るうことはほとんどないのだが。
「俺もお腹空いてたから早く出来るものにしたけど、味は悪くない……と思う」
 テーブルに並べられたあじのひらき、焦げ一つない出し巻き卵、ほうれん草のおひたし、長ねぎとおかかの入った納豆、長ねぎと油揚げのみそ汁に、茶碗いっぱいによそられた白米は、アルトリアの胃と鼻腔を刺激する。訳あってあまり美味しいと言える食事を食べていなかった彼女にとって、テーブルに並べられたこれらの料理はひどく魅力的だった。
 士郎は飲み干したお茶を淹れなおすと、両手を合わせて食事の挨拶をしようとして、箸を手に戸惑っているアルトリアに気づいた。
「箸の使い方が判らなかった?」
「あ、いえ。判ります。えーと、日本では食事の前に挨拶をするのですよね。『いただきます』でしたか」
「うん。いただきます」
 士郎はしょうゆを手にとって納豆にかけかき混ぜていると、アルトリアは少しぎこちないながらも上手に箸を使い出し巻き卵を一切れ掴み、口に運ぶ。
「美味しい……」
「良かった、口に合ったみたいだな」
 そう言ってかき混ぜた納豆をご飯にはかけずに口には運び、糸を巻き切ってから自らも出し巻き卵を口にして「美味しく出来てる」と頷いた。
 アルトリアは最初の一言を呟いてから言葉を発さず、一口食べては頷いて幸せそうに料理を口に運んでいく。士郎は半分ほど白米を食してから納豆をご飯にかけ、掻きこむように食してから味噌汁を飲んであじのひらきを解して食べる。純和食の食事は彼がとても落ちつく食事で、個人的な好みでいえば、技術的には劣るが他に作れる洋食よりも好きな部類だった。
 アルトリアが一杯ずつご飯とみそ汁をお代わりして食事を終えると、一息吐きたいタイミングで士郎が彼女にお茶を淹れる。
「ごちそうさま。すごく美味しかったです」
「ありがとう。食べっぷりも良かったし、作った方としてもすごく嬉しかった」
 玄米茶の香ばしい匂いを楽しみながら士郎は笑みを作り、一度啜ってから片付いた食器を台所まで持っていく。カランを捻れば冬の冷たい水が蛇口から流れて手の芯まで凍りつくような冷たさを感じつつ、食器を洗った。
 アルトリアは食事に夢中だった感覚を元の状態にまで引き伸ばし、正座をずっと続けていて僅かに痺れているかなと思う足を伸ばしてから、新しくはないが落ちつくような畳の匂いに気づいた。彼女は和風の建築物や食事にも特に親しくはないし、床に座り込むようなこともあまり経験はないのだが、自分がひどく落ちついていることに気づいた。それは畳の匂いのせいかもしれないし玄米茶にリラックス効果があるのかもしれないが、初めて来た場所なのに妙に馴染んでいる気がした。
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  1. 1970/01/06(火) 14:00:00|
  2. marble phantasm
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