雑事~ざつごと~

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SEEN-2.75 「Inner mind」

 キレイな曲線などどこにもなく、がたがたと形の崩れた爪に慎二は歯を立てる。苛立った時に出る彼の癖だった。もう丸一日ほど彼はマーブル・ファンタズムにログ・インし続けている。それというのも、昨日仕留め損なった士郎を今日の夜一番に殺しに行くためだった。
 発端は別にどうということもなかった。聖杯戦争――魔術師のためのグランド・クエスト・イヴェント。願望機を求めての殺し合いに、彼が参加資格を祖父から譲られたというだけの話だ。慎二の祖父、臓硯が呼び出したサーヴァントは、アサシンらしくないアサシンだった。当然、彼は落胆した。インターネットで得た知識によれば、アサシンというのは決まって『ハサン・サッバーハ』という存在が召喚されるはずだったのだから。元からあまり強くはないアサシンに加えて不完全品を押しつけられたという意識で、慎二は爪を噛んだ。
 慎二は昨日の夜、アサシンが士郎を追いかけてからのことを知らなかった。知っているのは、アサシンが自分の血と返り血を浴びて着物を赤黒く染めて返ってきたことぐらいだった。爪を挟んで離れていた歯が出合った。
 サーヴァント・アサシンは非常に優秀だった。魔術師の素質を持たない慎二に譲られて能力が落ちているとはいえ、宝具を使わなかったランサーと互角に遣り合ったアーチャーと戦って、無傷とはいわないがそれでも手酷い傷は負わずに帰って来たのだ。
 慎二は手に入れたつもりだったのだ。常人には、まして初心者のプレイヤーなど簡単に蹴散らす強大な力を。祖父に譲られた当初は嬉しさだけがあった。次にあったのは自分が聖杯戦争に、素質がないから憧れた魔術師の、そのためのイヴェントに参加しているという喜びで、その次にあったのは手に入れた力を使ってみたいという好奇心だった。
 標的が士郎だったのは、ちょうど良かったからだ。自分が羨望しつくしてやまない存在になれる衛宮士郎、弓道部で一番良い腕を持っているくせに家庭の都合とやらで辞めた衛宮士郎、幼い頃に引き取られてきてからずっと好きだった桜が好きな衛宮士郎、そして現実の痛みを伴なうマーブル・ファンタズムの世界、ちょうど良かった。それが失敗した、片手の爪が全て深爪になった。

 フローリングの床上にしかれた絨毯に座りこんだまま、呼吸だけを繰り返す慎二を、間桐桜は怪訝に見ていた。彼がマーブル・ファンタズムに随分と入れこんでいるのは知っていたが、一日中、それも学校を休んでまでやるほどではなかったはずだと彼女は思っていたからだ。
 マーブル・ファンタズム内でものを食べれば空腹感は消えるし、味覚的にも完全に再現されているから満足感は得れる。しかし実際に水分や栄養を補給したわけではないから、もちろん体に悪い。一部のプレイヤー……いわゆる廃人と呼ばれる存在はマーブル・ファンタズム内で満足感を得て、二日ほどプレイし続ける者も居る。が、ヴァーチャル・ギアの機能で連続四十八時間ダイヴを続けた場合、生命維持機能として強制的に意識が浮上することになっている。それから一時間ダイヴ不可能になるから、その間に廃人プレイヤーは栄養補給をし、また何時間もダイヴし続けるという。
 桜は慎二がそういうプレイヤーになったのかという心配はしていないが、今日、衛宮士郎が学校を休んだことに関係があるんじゃないかと考え、そして気のせいであると結論を下して一階に行き、夕食の下ごしらえをすることにした。

 今朝はマーブル・ファンタズムに長く居過ぎてに行けなかった分、夕食は手間をかけて作ります。と桜が意気込んで衛宮家の扉を開きながら挨拶をして居間に入ると、そこには難しい顔をして頬杖をついている切嗣の姿があった。普段はあまり真面目な顔も見せない彼が、眉間にしわを作り、口を引き締めている姿というのは実に珍しい。それこそ普通に暮らしている一般人が馬や牛の出産に立ち会う可能性よりも低いのではないだろうか。
 ともかくそれに出会ってしまった桜は、自分が来たことも気づかない切嗣の様子にたじろぎ、もう一度挨拶をするのも気まずい状況に置かれ、妙にそわそわとする。切嗣が居る手前、居間と廊下を行ったり来たりとすることも出来ず、彼女はもう一度小さな声で挨拶をしてから台所に入り、お茶を淹れて差し出すことにした。
 テーブルに愛用の湯のみを置かれてやっと桜に気づいた切嗣はいつもの笑顔で挨拶をし、そのまま飲むには少々熱い緑茶を冷まして啜った。ゆっくりと啜って息を吐いた切嗣はたっぷりと黙り、しわが集まりそうになった眉間を揉みほぐす。ゆらゆらと湯気を立てる湯のみを握り締めながら、切嗣はもう一度深く息を吐いた。
 相当深そうな切嗣の悩みに、桜は簡単に立ち入っていい話じゃないと判断して当初の目的どおり夕食を作ることにした。彼女は慣れた手つきで包丁を上手く使いながらも、頭に引っかかっていることがあった。衛宮士郎の姿が見えないのだ。それは十分に可笑しいことなのだ。眠気の強い方ではない士郎は昼寝などほとんどしないし、出かけているのなら玄関に靴は無いはずだが、しっかりとあった。つまり、どう見ても可笑しい状況だった。
「そういえば今日、先輩休みしたけどどうかしたんですか?」
 お茶を飲み干そうとしていた切嗣の手が止まり、眉間にしわが寄る。どうやらそれが悩みの種だったらしいと桜は気づき、無邪気に立ち入ってしまったと内心で反省しつつも、包丁で刻む手は止めない。あくまでも切嗣の様子に気づくまいとしている。
「……起きないんだ、ヴァーチャル・ギアつけたままでね。今までは遅くても、一時ぐらいには終わらせてたのに」
 桜はそれを聞いてようやく手が止まった。まるで今にも切れてしまいそうな綱が、ギリギリで繋がっているのを感じたからだ。おかしいと彼女は考えつつも手の動きを再開させる。しかし、思考はどこかにいったままに帰ってこないようだった。
 結局、切嗣と桜と大河の三人だけで取った夕食は妙に静かで、桜は、どこかにとらわれたままの心はホンの少しずつ何かを手繰り寄せるのに集中していた。
 帰るや早々、桜はヴァーチャル・ギアを被ってダイヴした。いつものティ・カップとポットには目もくれず、彼女はリヴィングから廊下を走って遠坂家を出る。夜はもう始まっていた。

 遠坂凛は心の中で愚痴をこぼし続ける。空はようやく気づいたかのようにオレンジ色に変わろうとした頃で、彼女はゆっくりと下校している最中だった。その姿は青春ドラマにでも出てきそうなほど絵になるが、心の中は道頓堀の川にぶちこまれてもなおその存在感を保ち続けるほどの毒に満ちていた。その愚痴の原因である士郎は、既に彼女の心の中で瀕死から死亡状態まで二、三度ぶっ殺されている。
「ああもうまったく、なんで休んでるのよ」
 ついに体内から溢れ出した言葉はずいぶんと低い声で、地を這いずりまわるトカゲの背中にでもひっつきそうな感じだ。その場で立ち止まった彼女は様になった構えをし、中国拳法独特の震脚で控えめに音を立ててから何もない場所へと腕を突き出す。打った空気と上着が揺れて音を立てた。 彼女は深呼吸をして気分を落ちつけ、さっきよりも少しだけ速く家へと急いだ。

 しっかりと温めてあったポットにお湯を注いだ凛は、ふたをして正確に時間を計る。ゆっくりと茶葉が味と香りをお湯に染める作業を待ちながら、彼女はテーブルの真ん中にある四角い缶からクッキィをつまむ。ちょうど一分経ったぐらいでポットの紅茶をサーブ用のポットへと移し、ティ・カップにポーションのミルクと角砂糖を一つ加え、砂糖を溶かすように紅茶を注いだ。
 それを一口飲んで彼女はため息を空中に吐いた。落ちつきたいときに……不安なときに彼女が作る角砂糖を一つ入れたミルク・ティは、今回もしっかりと役目を果たして落ちつかせてくれた。
 もう一つクッキィを食べて彼女は椅子の背もたれに寄りかかり、思考を深くうずめていく。
「材料が少なすぎるか。ホームズでもあるまいし」
 こわれたペン一本からどうにかしろと言われても、彼女には無理な話だった。それなりに頭の回転が速くはあるけど、と心の中で付け足したが。 少なくとも、現時点で彼女はなにが起こっているのかまったく判らないでいた。学校なんて休みそうもない衛宮士郎が学校を休んだ。そして昨日マーブル・ファンタズム内で、十二分に痛めつけられてから少々ドジなサーヴァントに連れられて恐らく助かったのだろうことぐらいしか、彼女には考える材料がなかった。しかし、そのどれもが、どうして学校を休むようなことになったのか繋がらないと彼女は眉をひそめ、温くなったミルク・ティを飲み干した。

 しっかりと夕食をとった後、凛はヴァーチャル・ギアを手に取る。ため息を吐きそうなほど使いこまれ、そして使いなれた手際で彼女はギアをかぶる。
 彼女にとって、それは単なるコミュニケーション・ツールのはずだった。遠くに離れた人とまるで会っているのように話せるための道具に過ぎなかったヴァーチャル・ギアとマーブル・ファンタズムは、今や彼女にとって生活の一部になっている。
 無謀をして三度死んだことのある彼女は心臓にナイフを突き刺すようなイメージを頭に描き、自制せよ、と心に刻んでからこめかみ近くのボタンを押して、遠坂凛はマーブル・ファンタズムにダイヴした。
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  1. 1970/01/08(木) 14:00:00|
  2. marble phantasm
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